報復の連鎖は憎しみしか産まない − 『ミュンヘン』

ミュンヘン スペシャル・エディション
 ミュンヘン スペシャル・エディション
 エリック・バナ

公式HPも併せてご覧下さい。
http://www.munich.jp/

2006年2月19日 TOHOシネマズ泉北
2005年アメリカ カラー 164分
シネマスコープ ドルビーSRD

 今日の映画は、今年度のアカデミー賞5部門にノミネートされています、スティーブン・スピルバーグ監督作品『ミュンヘン』です。

 私にとってスピルバーグ監督とは、作品が公開されたら無条件に見に行ってしまう監督の一人で、小学生の時に『未知との遭遇』を見て以来、29年の”付き合い”になります。最近は以前の十八番だったSF作品がつまらなくなってきて残念なのですが、今回の『ミュンヘン』は、実話に基づく息つく暇もない重厚なドラマでした。

 出演は、『ハルク』や『トロイ』に出演したエリック・バナ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』や『シャイン』でおなじみジェフリー・ラッシュ、『アメリ』の彼氏役や『クリムゾン・リバー』では監督をしているマシュー・カソヴィッツ、そして新007、ダニエル・クレイグです。ダニエル・クレイグに関しては、来年公開の『007/カジノ・ロワイヤル』の予習として注目してみてはいかがでしょうか?

<ストーリー>
 1972年のミュンヘン・オリンピック。パレスチナのテロ集団”黒い9月”がイスラエルの選手団11人を人質に選手村に篭城。全世界が注目する中でドイツによる救出作戦は失敗。人質は全員死亡。イスラエル政府は極秘でパレスチナに対する報復としてPLO(パレスチナ解放機構)の重要人物とされる人物を初めとする11人の暗殺を決意。国際法にも違反するこの任務のリーダーに選ばれたのは、イスラエル情報機関”モサド”の一員であるアヴナー(エリック・バナ)。極秘任務であるため、彼はそのことを身重の妻にも告げられず、またモサドとは一切関係ないとする”誓約書”にサインをさせられ、イスラエルを後にする。彼が唯一連絡を取るのを許されるのは上官のエフライム(ジェフリー・ラッシュ)だけだった。ジュネーヴで軍資金と仲間4人を与えられたアヴナーは、早速任務の遂行を始めるが…


 この映画を見て最初に思ったのは、報復の連鎖は憎しみしか産まず、死者の数を増やすだけということでした。争いとは関係のない自国のオリンピック選手を無残に殺されたイスラエルの気持ちはわかります。報復したい気持ちもわかります。しかしターゲットとされた人々はテロに関係があるとされている人たちだけではなく、パレスチナにとっての重要人物で今は欧州で暮らしている人も含まれており、その人たちはそれぞれの場所で幸せに暮らしていたりします。しかしイスラエルはその人たちの暗殺を主人公に指示し、主人公たちはその人たちの生活を目の当たりにし、戸惑いながらも暗殺。パレスチナ側もまたそれに対する報復を開始。主人公自身も自分たちのことがどれだけ洩れているか不安になり、命の心配をして…もう報復の無限ループですね。見ている間も、どうすればこの憎しみの循環が断ち切られるのだろうかを考えたのですが、思いつきませんでした。私自身、パレスチナとイスラエルの問題についてあまりにも無知だからなのも思いつかない理由の一つです。この問題については、この映画をきっかけに勉強しようと思います。

 少し話が逸れますが、東京のTBSラジオで平日の午後から放送されている、コラムの花道という番組があり、アメリカ在住で雑誌『映画秘宝』などで活躍している町山智浩さんが毎週火曜日にアメリカ発の映画情報を紹介してくれていますが、昨年12月20日放送分では『ミュンヘン』が紹介されていました。その中で町山さんはこの映画のラストシーンについて、それがスピルバーグからのメッセージだと語っていました。これ、ネタバレちゃうの〜?と思ってましたが、映画を見て、”これは言われなかったら、わからん人はわからんなぁ”と納得できました。詳細は以下をクリックして番組を聴いてください。全然ネタバレではありませんから(笑)。

http://tbs954.cocolog-nifty.com/954/files/st1220.mp3

 日本限定の余談ですが、この作品は長らくスピルバーグ映画を包んでいた呪縛から解き放たれた映画でもあります。
 それはまず、この作品がスピルバーグ監督作品初のインディーズ系配給会社の公開作品であることです。今までのスピルバーグ監督作品は全てアメリカ・メジャーが配給していました。『ミュンヘン』もアメリカではユニヴァーサルが配給しています(製作はユニヴァーサルとドリームワークス社)。今回どういういきさつかはわかりませんが、UIPと共にドリームワークス作品の配給権を持ちながら、『チキン・ラン』と『ザ・リング』シリーズしか配給実績がなかったアスミック・エースがついにスピルバーグ監督作品を配給。これはスピルバーグ監督作品の、日本での公開の歴史を考えると大事件です(笑)。
 それから『ミュンヘン』は、何と25年ぶりに戸田奈津子さん以外の人がスピルバーグ監督作品の字幕を担当した作品です。戸田さんといえば字幕の翻訳問題で物議をかもしている方で、『レイダース 失われたアーク』以来ずっとスピルバーグ監督作品の字幕を担当してきました。今回も戸田さんだろうと私は諦めていましたが、本編中に、

「〜を?」
「〜せにゃ」
「〜かもだ(ぜ)」
「〜など!」
「〜なので?」
「〜と?」
「〜で?」

など、いわゆる”なっち語”が出てこない(笑)。”まさか違う人?”と思ったら、松浦美奈さんが字幕を担当していました。アスミック・エース効果なのか戸田さんの”力”が落ちたのかわかりませんが、映画字幕業界の勢力図に変化が現れてきたことは確かなようです。

 何だか途中から話が逸れましたが、『ミュンヘン』、『ホテル・ルワンダ』と並んでこの2月、オススメの作品です。機会があればゼヒご覧ください。

コメント

早速行かれましたか!
嬉しいですね。
今度また、感想を聞かせてくださいね!

『ブラック・セプテンバー』、見逃してしまったのよ〜。・°°・(>_<)・°°・。
メッチャ悔しいです。
ドイツの対応、ホンマムチャクチャですよね。
犯人の数より狙撃者の数が少ないなんて、笑うに笑えない。
狙撃者一人が二人撃たないといけないなんてナンセンスです。
一発目で仕留めたところで、生きてるヤツが人質を殺すだけやもん。
ホンマ腹が立ちますね。
スピルバーグ、本人がユダヤ系ということもあり、
今まで『インディ・ジョーンズ』や『シンドラーのリスト』でナチスを批判していたので、
イスラエルからも好意的に思われていたそうですが、
この作品で、イスラエルやアメリカのリベラル派から”反イスラエル”の烙印を押されたそうです。
ボクとしては、真っ当な視点を持った人だと見直したのですが…

今日、早速行ってきました。
>ホンモノの健さんに鼻で笑われたトラウマから抜け出せず、見に行けてません(;_;)シクシク
o(;'0')o・・エッ!そんな事があったの?
そりゃ・・チョット無理ぽいよね。
トラウマはなかなか抜けませんもの。

元々のテロ事件のドキュメンタリーを
WOWOWで見て、ドイツ政府の
対応のお粗末さに何より腹が立ちました。
物事には様々な視点があり
それを理解する事で
聖戦というものがないという事を
少しでも感じる事ができればなあ。

こちらこそ、ご無沙汰しています。
いやぁ、ワタクシの長文ダラダラをお読みいただき、ありがとうゴザイマス。
そういえば、町山さんと柳下さん、それぞれウェイン町山とガース柳下を名乗っていた時期がありましたね(笑)。
町山さんが出ている『コラムの花道』、ネットラジオのおかげで大阪でも聴くことが出来て有り難いですワ。
いそさんも日中はお仕事で聴けないと思いますから、ネットラジオは便利ですよ。ぜひお聴きください(笑)。
最近、こんな本、出しましたよ、町山さん。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4896919742/konoyubitom06-22?dev-t=D1AXR2F2MH9JW9%26camp=2025%26link_code=xm2" target="_blank">http://images-jp.amazon.com/images/P/4896919742.09.MZZZZZZZ.jpg" alt="〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀" border="0" align="left">

ここまでスピルバーグについて見えるのは、子供の頃に『未知との遭遇』を見たときの感動が忘れられず、ずっと作品を見続けてきたからかもしれません。
ちなみに、『宇宙戦争』よりはるかにイイ作品ですよ!

こちらこそ、ありがと〜!
書いて良かったです。
ちなみに『単騎、千里を走る』、昔、ホンモノの健さんに鼻で笑われたトラウマから抜け出せず、見に行けてません(;_;)シクシク

いやぁ、ある程度の意訳は仕方がないとしても、
内容そのものが変わってしまうのは、
チト考えモノです。
戸田さんのマズイところは、字幕を”観客をフォローするためのもの”ではなく”自分の作品”と思っちゃってるところなんですね。
それから映画会社も字幕が正しい意味を伝えているのかチェックしてほしいものですね(笑)。

お久しぶりです。「ミュンヘン」はぜひ観たいと思ってるんですよ。Leeさんのブログでさらにその思いが強くなりました。ありがとうございます。
余談ですが、町山さん(と柳下さん)のファビュラス・バーカー・ボーイズ、大好きなんですよね……。こういうこというと、どんなバカだと思われるでしょうが、映画秘宝は私の映画道に外せないアイテムなんですわ。町山さんがラジオに出ているなんて初めて知りましたが、これからチェックします。

ぐぐってみて分かりました。
これは、ひどいですねぇ・・・
なんの疑いもせず、字幕読んでたのに〜〜〜ヽ(`Д´)ノ

さすが・・
 そこまで目をつけてるとは・・

Leeさん、ありがとぉ♪
観に行きます。

気にはなってたのですが、ますます見たくなりました。
エンディングが気になる(笑)
ところで、戸田奈津子さんって何か物議をかもしてるんですか?全然知らなかった・・・(^-^;

確かにイメージという意味では翻訳者の責任は重大ですね。
『スター・ウォーズ』も第1作ですでに”クローン戦争”について語られているのに、当時の翻訳では物語と関係がないと言うことで省略されました。『機動戦士ガンダム』でもそうなのですが、SF作品って何気ない固有名詞が作品世界を広げるものです。当時の翻訳者は優秀な方でしたがSFがわかっていなかったようです。『スター・ウォーズ』旧3部作に関しては、特別編でかなり直されましたよ〜!

翻訳字幕によってイメージかわりますよね。
映像まんまで聞き取れない語学力が残念ですが・・。
お奨め作品、必ず見たいと思ってます。

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